特に、開発体制については、サービスの完成品をリリースするという方針から、顧客優先度の高い機能から小さく早く順次リリースする方針へと転換。いわゆるMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を短期間でリリースすることで、進化し続けるサービス提供の実現を進めている。社内でアジャイル型の手法を取り入れたアジャイル開発センターの立ち上げたのもその一環だという。

 同開発センターでは、新サービスの企画も社内だけで行おうとするのではなく、リリースする前に複数の顧客にトライアルへ参加してもらい、サービスの有効性を検証している。顧客との関係を深め、完成品ではなく細切れのサービスをリリースし、トライ&エラーを繰り返しながらニーズに合ったサービスを作り上げてきたのである。

 

 しかし、同社の変革への取り組みはまだまだ完成したわけではない。藤井氏は「既存のサービスやビジネスもあり、なんでも一気に変えてしまうというわけにはいきません。ですから、トライ&エラーの繰り返しで、変化し続けているのです」と話す。KDDIのこうした取り組みにも、デジタルトランスフォーメーションへのヒントがありそうだ。

戦略の柱となる9つのバリューとそれらを支える3つの強み

 同社のサービス戦略はどのような形でアウトプットされているのだろうか。同社では「Communicate」「Compute」「Connect」「Access」といったバリューと、それらを統合する「Manage」「Security」の計9つのバリューが存在する。その内容はどういったものなのか。「Compute」「Communication」「Manage」を例に挙げ、藤井氏に説明いただいた。

 

 「まず「Compute」とは成長するビジネスを支え続けるクラウド基盤です。プライベートクラウドからパブリッククラウドまで、グローバルベストなクラウドラインアップの中からお客さまのビジネスに最適なクラウドを選択できるようにし、さらにビジネススケールの変化に合わせて特定のクラウド基盤に縛られることなく基盤自体を自由に変更できるようにしていきます。

 次に、「Communicate」は、高度な臨場感と洗練された体感品質による快適なビジネスコミュニケーション環境の提供です。「UC(ユニファイドコミュニケーション) as a Service」と呼ばれますが、当社はCisco Sparkを中心に多数のラインアップを用意しています。マルチデバイスに対応するほか、お客さまのニーズや環境に適したサービスを提供します。

 最後に、「Manage」は、KDDIが提供するバリューを統合管理する「ワンストップマネージメント」です。KDDIがお客さまに多種多様なサービスを提供しても、それらが独立して提供、管理されることがお客さまにとって不利益であることは自明です。9つのバリューすべてを提供するKDDIだからこそ、トータルサポートを実現できます。お客さまのビジネスに必要なプラットフォームを提供するということは、サービスの提供だけでなく、その統合管理までも責任を持って対応することであると考えており、この「Manage」こそが、KDDIだからこそ果たすことができる、重要な役割の一つであると考えています。」

また、これら9つのバリューを支える強みを藤井氏は3つあげる。

 1つ目は、お客さまへ提供するバリューを常に進化させていくことだ。「すべてオープンにするとか、逆にプライベートだけを強化していく、といったこだわりは持っていません」と藤井氏。すべてをトータルに手がけ、かつ進化を継続していくことで、本当にお客さまが必要とするものを提供できるようにしているという。

 2つ目は、すべてのテクノロジーを自社だけでは開発できない、と理解していることだ。それを裏付けるのが、数多くの企業とのパートナーシップの広がりだ。クラウド専業ベンダーの「アイレット」、IoT・通信プラットフォームを提供する「ソラコム」をグループに加えたり、Amazon、Google、Microsoft、Ciscoなどグローバルプレイヤーをクラウドパートナーとして提携するなどして、自社に足りない部分をパートナーシップで補い、常にお客さまのニーズに応えられるソリューションを提供する。

 「そして3つ目が、海外拠点に対してもサポートできること。ここは、昔ながらの得意分野です」と藤井氏。ネットワーク環境を整えるにあたって現地キャリアと連携したり、現地に赴いて障害を検証するといった泥臭いところも手がける。

 こうした3つの強みに共通しているのが、顧客に寄り添う姿勢だ。「デジタルトランスフォーメーションとは、新たなビジネスにチャレンジすること。我々はそこから逃げずに、お客さまの挑戦に、全力で取り組んでいきます」と藤井氏は顧客との共創の重要性を語る。

 B to Bのサービスを提供するだけではなく、その先の消費者やユーザーを見すえたバリューを生みだす提案ができれば、さらに面白いものが生まれるはずだ。実際、同社では、顧客同士のビジネス連携を後押しするような活動にも取り組んでいる。いわば、回線をつなぐ会社から、今ではビジネスとビジネスをつなぐ会社へと進化している。デジタルトランスフォーメーションに挑戦する企業にとっては心強い味方だと言えるだろう。